土曜日の夜、本当に久しぶりに、三軒茶屋道場の里山先生から、連絡がありました。
【金久保、明日、カブトムシ捕りに行くの?もし行くなら、一緒に行きたいのだけど、金久保の近況も聞きたいし…】
【先輩、自分も今から、行こうかと考えていましたが、もうこの時期は、ほぼ、いませんよ…樹液が無くなり、自然界のカブトムシは既に弱っているので、まず捕まらないですよ…とりあえず下見に行ってみますが、あまり期待はしないで下さい】
そんな回答をしたかと思います。
その日、一人で下見に行くと案の定、一匹も捕まらず、もういない。
カブトムシは、8月の最初の週でも殆ど、いなくなる時期になる。
今年は、6月には、下見やら、狩りに行き続けていた。
狩る方法を新たに見付けたり、探索ルートを広範囲に渡り、ひたすら探し続けてきた。
○月○日~○日までの時期が、一番のピークである事も解った。
こんなニュアンスの話を、涼しい顔で佐野先生へ、話をすると、いつも『…やらしーなー!本当に!…教えろって! …さりげなく振っても、2年前から、この話だけは、本当に言おうとしないな…やらしーなー…』
そんな、やり取りがある度に、佐野先生との、やり取りには、笑いを堪えるのが、本当に苦しいくらいにさせて貰って来た。
佐野先生も、面白過ぎる事があるけれど、数年ぶりの、朝までの里山先輩との話しも、とても面白かった。
最近は、御互いに忙しいので、里山先輩には、たまに会えば少しだけ話をしたり、稀にメールで連絡をさせて頂く程度ではあった。
里山先輩は、三軒茶屋道場の元職員だった方で、自分の5歳年上の先輩にあたります。
立派な御仕事をされながらも、現在も週に一度だけ、三軒茶屋道場で、少年部と一般部クラスの指導をされている先生です。
その熱血指導で、三軒茶屋道場では、多くの強豪選手達を、排出されて来た先生でもあります。
里山先輩との経緯を、話すと、長過ぎるので、何から話して良いやら迷いますが、解りやすくまとめられたらと思います。
過去の、一般選手権大会で自分は、全日本ウエイト制大会、無差別の全日本大会と、長年、先輩と一緒の大会へも出場しました。
先輩は、第21回全日本ウエイト制大会では、中量級のカテゴリーで、第4位に輝かれた実力者でもあります。
第9回全世界大会(無差別)の、日本代表最終選抜トーナメントにも選考され、その試合を最後に、現役選手を引退されています。
当時、里山先輩が、現役選手を引退された時は、自分は31歳になっていた時期かと思います。
先輩の日本代表最終選抜トーナメントには、自分も先輩のセコンドに入りました。
引退を決めていた最後の試合を前に【覚悟】を漂わせる表情で舞台に上がり、名前を呼ばれる際に、セコンドにいた自分へ、深く頷いてくれた様子に、前身、鳥肌が立った記憶があります。
先輩とは、自分が25歳の頃から、稽古では毎週、素手で、バチバチに、ド突き合いをしました。
自分が、全日本大会や、数々の大会で戦ってきた試合場では、近藤先輩や、里山先輩、佐野先生が、セコンドに入って頂いた試合が本当に数知れずあり、その当時の思い出話しも。(第10回全世界大会王者のタリエル・ニコラシビリ選手と、自分が戦う歳には、里山先輩も、セコンドに入ってくれていました。今の東大和の山田先生もいました。)
昔の話を含め、ロシアのトップ選手達と戦ってきた話や、極真についてや、御互いの生徒達の様々な話等を朝まで、付き合いをして頂きました。
熱い人柄と、その熱血指導で、今も多くの生徒達から慕われているのが、里山先輩です。
…そして、里山先輩を、俺の【カブパト】に連れていく事に。
自然の空気や、深夜の森林の様子を見せて、感じて貰いたいなと、考えていました。
沢山、ルートがあり、夕べから、どこがいいかな?と迷っていましたが、解りやすい場所を案内しました。
既に、カブトムシ達は捕まらなく、いないのを前提で、ルートを探索。
いる気配や、様子は本当に、感じなくなっていた。
しかし、帰り際…元気に転がるカブトムシがいた…
『…あぁ、先輩、カブトですよ…本当に、背中から転がっているでしょう…』
そんな、やり取りを。
メスの、カブトムシでしたが、道場の生き残りを、見せる以外にも、実際に自然界の、生カブトムシを先輩に、見せてあげられた事が、嬉しかった。
『…先輩、メスですが、匂い嗅いでみて下さい…背中に毛が生えていて、雄と違う匂いがするんですよ』
鼻にあてながら、匂いを嗅いでから、先輩へも嗅がせようと促す。
『あ…本当だ、匂いがするな…』
『先輩、メスは、捕まえて袋に入れて、どんなに強く縛っていても、ほじくって逃げるんですよ…』
その後、食事へ行き、朝まで話をした。
そんな会話をしたな。(先輩と話をしている間も、やはり、袋を突き破り、テーブル角に出ていたのを、また袋へ入れ直した)
『…先輩、これですよ、さっき話したのは…メスは、オスと違い、袋を突き破り、逃げるんですよね…』(そんな話を)
里山先輩と別れ、一人で牛丼屋で、カレーライス、牛丼を食べている間に、入り口に、袋に入れて置いてあった、カブトの雌は、案の定…逃げていた。
隈無く探したが、何処にも見当たらず…
あんなに縛っていたのに…